漢字とパソコン by 吹田 秀才


〔誤字発見〕

先日、病院へ受診に行った時のことです。患者が多く、時間予約をしていても、受診まで一時間以上待つことは屡で、私は、この日も受付窓口前のベンチに坐り、ぼんやりと掲示物を眺めながら順番を待っていました。その時です、「え、これは? まさか!」。私は、前の漢字二文字に釘付けされました。その縦書きの張り紙には、上に医師の氏名、そして、下に「大学より紹聘」と記してありました。

私は、すぐ「これは変だぞ、紹聘は間違いで、招聘とすべきだ」と思い「義を見て為さざるは勇なきなり」と、窓口で指摘するべく立ち上がりました。しかし「一寸待てよ、ひょっとすると、このような文字の使い方があるのかも知れない、知名な大病院であり、しかも大学が関係しているではないか、間違う筈がない」と、恥をかくのが怖くなり勝手な理屈をつけて、また腰を下ろしました。しかし、その後も気にかかり、お蔭でこの日は待ち時間がいつもより短く感じられました。

自宅に帰って早速漢和辞典を見ると、そこには紹聘なる漢字はありませんでした。矢張り私は正しかったのか、と、ほっとすると同時に、自分の自信のなさに嫌悪感を覚えました。そして自分で招聘と書いて見ようとペンを取りました。ところがどうです、聘の文字が分りません。読むことは出来ても書くことが出来ないのです。皆さんは、このような経験はないでしょうか。私は、愕然とし思いつくまま、漢字書きに挑戦して見ました(文末付録として掲載、皆さんも挑戦して下さい)。案外、分っているようで書けないものです。何故でしょうか、それは齢のせいばかりではないと思います。

〔なぜ、誤字となったのか〕

 話を元に戻しましょう。病院のその張り紙はパソコンで入力して文字を拡大したものです。
私は、自分のパソコンで実験してみました。「だいがくよりしょうへい」と読みを入力し、スペースキーで漢字変換してみました。すると1回で「大学より招聘」と変換されるではありませんか。また、「しょうへい」の他の漢字変換候補を見ても「紹聘」なる漢字は見当たりません。

では、病院は何故間違えたのでしょうか。 私は何度も実験を試みました。その中で、先ず一文字「しょう」と読みを入力し漢字変換すると「紹」となり、続けて「へい」と入力して変換すると「聘」となる。次に、「しょうへい」と入力し漢字変換したとき「紹聘」となった時があった。つまり「紹」には太い下線、「聘」には細い下線がついている。そのままエンターキーで確定すれば「紹聘」となる。

恐らく病院は後者の方法で入力したものと推察されます。

敢えて他の原因を探せば、漢字の読みも意味も分らないまま、先ず「招」を「紹」と誤入力し、続けてIMEパッドを利用して「聘」と入力した、と言えなくもないが、これは常識として考えられない。

いずれにしても本件はオペレーターの単純ミスだと思う。入力後、貼り出し後に再度チェックしていれば防げた筈です。直接、人命に関係はないが、病院の信用に関するもので管理体制が問われます。

〔漢字をもっと手書きしよう〕

パソコンの普及により直接漢字を書く機会が少なくなった。キーを叩けば簡単に漢字が入力出来る時代です。最近、学生の国語力が著しく低下しているとか、小学校へ英語教育を導入すべき等の論議を耳にします。英語も大事ですが、私は日本人である以上、全ての教科の基礎であり、生活に密着している国語能力向上が最優先の課題だと思います。特に漢字は直接何度も紙に書いて覚える他はありません。

今、パソコン操作を初心者に指導している者として、大いに考えさせられる問題だと思います。

 さて、病院の張り紙は、その後どうなったかな? まだ、その儘かな? 書き直したかな? それとも取り払ったかな? 次回の通院日が待ち遠しい次第です。

以 上



《付録、テスト》

下記の漢字に挑戦して見て下さい。あなたは何問書けますか?

  ※記入方法:各テスト文のカタカナ部分を、漢字記入欄に漢字で記入して下さい。

        自分で再チェックし、右の欄へ正しければ○、間違い又は分らなかった時は×を記入して下さい。

番 号 テ ス ト の 文 漢字記入欄  正は○、誤は× 
誤字をシテキする    
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