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            チャッピー物語    by イッチャン

後  編 前編続編 はこちら)


全て創作であり、誰かをモデルにしたものでは有りません。

ご愛読下さい。

目  次


流転 N301 悔い N307 採用 N313 C18 不安 N318 一変 N324 結果 N330
会議 N336  C19 論争 N341 開花 N346 B16 B17  展開 N351 慕情 N357
安西 N364 汽笛 N368 C20 C21 叱責 N371 威嚇 N377 C22 C23
テレビ N381 最終章 N386 後書き B18 B19 B20 B21 C24 母の思い出 C25
父の思い出 C28

チャッピー物語(301)    ”男と女”     

ここで再度、登場人物と内容の整理してみよう

女(綾子)ー男と離婚  主人公 現在 温泉旅館の仲居

良雄ーー旅館の若主人
園子ーー良雄の母 旅館の女将

順三ーー良雄の父 旅館の主人
早紀ーー旅館の娘で都会のホテルのフロント
時枝ーー旅館の新番頭代理
千佳子ーー旅館の仲居

男(徹夫)ーカメラマン 綾子と離婚  主人公
高子ーー雑誌社の編集長 澄江ー高子の母
柿沢ーー作家
竜崎ーー雑誌社の重役兼販売部長
健二ーー雑誌社の新入社員
節子ーー高子の友人 守ーー節子の夫

綾子は離婚の傷心の旅の途中、職を得た旅館で
女将園子、主人順三および千佳子に見守られながら、
息子の良雄に求婚されていた。良雄に高峠の黒百合の花
を取りに行くよう依頼したが思わぬ事件に。
時枝は番頭代理に抜擢されたが、苦悩する。
早紀は失恋の末、女将修行に出かけ、徹夫に会う。

徹夫は雑誌社の編集長の高子に会い、葛藤をへながら
カメラの仕事に取り組み苦闘し、早紀と会い開眼しつつある

高子には元恋人の竜崎と母の澄江がいる。
作家の柿沢との仕事に入るが苦闘する。
竜崎は新人の健二に翻弄されていた。

節子は夫の守と子供に支えられ
就職活動に励むがうまくいっていない。


チャッピー物語(302)   ”男と女”      綾子

綾子は気がつけば、山陰の港が見える場末の

バーのホステスになっていた。綾子の気分は

薄暗く、日本海の荒波と、時に吹雪舞う

その山陰にやっと、辿りついたといってよい。

何処をどうやってきたのかの記憶がなく

晴れ渡る場所には居れないし

自分の気持ちが耐えられなかった。


『潮の匂いに 包まれながら
砂に埋れて 眠りたい
失くした後で しみじみ知った
あなたの愛の 大きさを
烏取砂丘の 道は迷い道
ひとりで生きて行けるでしょうか』

 鳥取砂丘(1)  水森かおり


チャッピー物語(303)   ”男と女” 綾子     

綾子には何千年も生きたように疲れ、

すでに死んだような気持ちにもなり、

うっすらと灰色の過去をたどるしかなかった。

そしてお客も少ないなかで、飲めない酒を

浴びるよう飲む日々であった。周りのホステスたちも

始めは好奇心で眺めていたが、ついには

ほっとくしかなかった。綾子にもそれが良かった。

変に構われると自分が持たず、何をするか

わから無かった。

『指のすき間を こぼれて落ちた
砂と同(おんな)じ しあわせは
愛されぐせが いつしか付いて
愛することを 忘れてた
烏取砂丘の 風に尋ねたい
私に罪があるのでしょうか』

 鳥取砂丘(2)  水森かおり


チャッピー物語(304)   ”男と女” 綾子    

あの時、高峠中を捜索した探索で良雄は、

谷から自動車ごと墜落しており、発見された時には

すでに息を引き取っていた。なきがらを

引き取り家族に合わせた時には

園子、順三も声もでなかった。

あわただしく通夜、葬儀を済ませたが、

勿論綾子も何をどうしたらよいか

分らなくて、世話人のいうままに従った。

気丈夫に母の園子はふるまっていただけに

周りのものは、余計に辛かった。

『二度と昨日へ 戻れぬように
砂が足跡 消して行く
あなたと生きた 想い出捨てて
背伸びをすれば 涙越し
烏取砂丘の 星が道しるべ
 見えない明日が見えるでしょうか』

 鳥取砂丘(3)  水森かおり


チャッピー物語(305)  ”男と女” 綾子    

初7日も過ぎて、母親の園子は、綾子と

話あう機会を設けた。”でーどうだったの”

綾子はやっと良雄に依頼した高峠の黒百合の

件も途切れ途切れに答えて言った。

”そうそうだったのーー”園子は一つ一つ

確かめるように聞いていった。

49日の法要も終わり、再度

園子は綾子を呼び出した。

”今度の件は運命だったのよ。良雄が

自分で選んだことなのよーー”と綾子に言った。

自分を責めるのではない園子の

態度に綾子は何も言えなかった。

『細い汽笛が 心に刺さる  
  星屑ばかりの 北の空  
  涙さえ凍る こんな夜
  吠える風に ふるえてる
  胸の痛みを あなた
  あなた 聞いてくれますか
  寒い心 さむい
  哀しみ本線 日本海』

  森昌子  哀しみ本線 日本海(2)


チャッピー物語(306)   ”男と女” 綾子    

綾子はこのまま旅館にいるべきでは

無いと思った。自分のまいた種でいつまでも

のうのうと居れる存在ではないと悟った。

仲間の千佳子はそれを察し、”綾子さん

行かないで下さい。女将は決して貴女を

責めてないよ。それどころか寂しい気持ちの
女将を支えてあげてくださいよ。”

”それに私も綾子さんがいるからここにいるのだから”

その後順三も尋ねてきた。

”息子は今まで親の言いなりで、今度は

始めて自分の意思を貫いたと思っている

男として思う女性のため命をかけたのは、

決して悔いが無いと思うよ”

そして”園子を息子の代わりに励まして欲しい。

私らは決して貴女を他人とは思っていないよ”


『入り江伝いに 灯りが揺れる
  名前も知らない 北の町
  凍り付く指に 息をかけ
  旅の重さ ペンをとる
  綴る便りを あなた
  あなた 読んでくれますか
  寒い心 さむい
  哀しみ本線 日本海』

  森昌子  哀しみ本線 日本海(3)


チャッピー物語(307)  ”男と女” 綾子    

綾子は皆から憎まれたり、恨んだり叩かれれば

まだ救いがあったろうが、

自分を見るたびに辛く悲しい事を両親に

思い起こさせる事は耐えられなかった。

そして自分の心が許せなかった。

そしてある日だれにも告げず、メモだけ置いて

旅館を出て、夜汽車に乗った。

何たる運命のいたずらか

良かれと思って頼んだ良雄に

このような事が訪れようとは。

『無理して飲んじゃいけないと
肩をやさしく抱きよせた
あの人どうしているかしら
噂をきけばあいたくて
おもいで酒に酔うばかり』

  小林幸子  思い出酒(1)


チャッピー物語(308)  ”男と女” 綾子    

あてどの無い旅ではあった。しばしば

適当に駅を降りたが、いずこも綾子には

向かなかった。世界が自分を拒否していた。

回りも見えなかった。そして何かのざわめきが

自分を責めているように感じていた。

そして自分が居れるのは灰色の景色

しかなかった。雪国は白すぎて時に明るく、思い出に、

耐えられない。温かい地方は自分の世界ではなかった。

そしてある山陰の駅で降り、そこなら自分が

隠れられるような気になった。そして

飲みに寄った、バーで雇われた。

『ボトルに別れた日をかいて
そっと涙の小指かむ
あの人どうしているかしら
出船の汽笛ききながら
おもいで酒に酔うばかり』
  小林幸子  思い出酒(2)


チャッピー物語(309)   ”男と女” 綾子    

千佳子からも姉のように頼りにされ、

彼女には温泉を出ることをすばやく

悟られたが、それでも行き先を伝えずにでた。

女将の園子とか、主人の順三とにも

何もいわずに出た。何か言えば弁解に

なろうし弁解もしようがなかった。

自分を許せなく、そして自分がわからなく

あてども無い旅の後ここにたどり着いた。


『いつかは忘れる人なのに
飲めば未練がまたつのる
あの人どうしているかしら
くらしも荒れたこのごろは
おもいで酒に酔うばかり』
  
  小林幸子  思い出酒(3)


チャッピー物語(310)   ”男と女” 綾子    

綾子は繰り返しつぶやいた。

良雄さんがあの時、”そんなバカな”とか
一笑に付してくれたらとか、

あるいははっきりと断ってくれたらとか、

せめて自分も一緒に探しに行ってたらとか

あんな事を言わなければとか、悔いは

尽きることが無かった。

そして、忘れようとして、忘れるはずがなく、

只酒におぼれていった。

それは綾子の体を次第に痛めていった。

『ひとり酒場で 飲む酒は   
別れ涙の 味がする  
 飲んで捨てたい 面影が  
 飲めばグラスに また浮かぶ』
美空ひばり  悲しい酒(1)


チャッピー物語(311)    ”男と女” 綾子    

良雄さんは私が新米の時あれほど

相談に乗ってくれたのに、

そして早紀さんの思いを振り切ってまで

私だけにーーーまっすぐだったのにーー

私の方はそれに対して、

甘えと賭けだったのだ。

試したりしてーーー

家族のみんなもいい人たちだった

考えてみれば、時枝さんのことだって、

あんなに苦しかったのに、ここまでこれたのは、

皆主人の順三さんの思いやりだったのだろう。

『酒よこころが あるならば  
 胸の悩みを 消してくれ  
 酔えば悲しく なる酒を  
 飲んで泣くのも 恋のため』

美空ひばり  悲しい酒(2)


チャッピー物語(312)   ”男と女” 綾子    

それにしても女将の園子はどんな思いを

いだいていたのだろう。

多くを語らないだけに、子供を持たない

綾子には真には分るはずも無いのだが、

急に老け落ち込む姿は痛々しく

声をかけるに忍びがたかった。

千佳子の願いも振り切り、綾子は

隠れるしか身の置き所がなかった。


『一人ぼっちが 好きだよと  
 言った心の 裏で泣く  
 好きで添えない 人の世を  
 泣いて怨んで 夜が更ける』

美空ひばり  悲しい酒(3)


チャッピー物語(313)   ”男と女” 節子    

節子の話に戻る。

家族の励ましもあって、節子はハローワークに

通い詰めた。いずれも採用には至ら無かった。

だが懲りずに求人を探していた時、

20人も募集している会社が見つかった。

節子は、これならひょっとしてと考えた。

距離的にも遠くは無くて、パソコンを扱う仕事で

あった。只試用期間が3ヶ月あって、それから

正式採用になるとのことが、気になったが、

会社側も人を選ぶのに慎重なのだなと

思いハローワークの担当に申しこんだ。


チャッピー物語(314)   ”男と女” 節子    

ハローワークの担当者は”ここですか”と、

若干とまどった視線を節子に送ったが、

節子は”お願いします”といって、会社に

掛け合ってもらうように頼んだ。直ぐに

面接をするからということで、履歴書持参の

会社の場所と時間の指定があった。

節子もすでに何社も受けてきたので

履歴書の見直しをして、それから面接の心得を

掴んでいるので、以前の様には焦らなかった。


チャッピー物語(315)    ”男と女” 節子    

前日に交通機関を確かめ、会社まで

行ってみたが、

しかしビルの中の一室のようで、閉まっていた。

ちょっと小さい感じなので、あてが外れたが。

当日は迷わずいけた。 面接には2人で、その会社の

重役とかで、恰幅のいい50歳台の壮年であった。

もう一人は経理の女性で何か社長の

親戚とか言う事であった。

ともににこやかに迎えてくれた。

『風にふるえる 緑の草原
たどる瞳輝く 若き旅人よ
お聞きはるかな 空に鐘が鳴る
遠い故郷にいる 母の歌に似て
やがて冬が冷たい雪を運ぶだろう
君の若い足あと
胸に燃える恋もうずめて
草は枯れても 命果てるまで
君よ夢を心に 若き旅人よ』

  加山雄三  旅人よ(1)


チャッピー物語(316)   ”男と女” 節子    

節子は緊張はしたものの、落ちてもともとと

度胸を決め、質問に答えていった。

仕事はパソコンのソフトを勉強して、それを

活用すると言う事であった。”少々難しいかも

分らないがみんな始めは一緒ですし、なんでも

聞いて下さって良いですよ。”

非常に友好的な雰囲気だったので、

今回は旨くいきそうだと節子は思った。

多分20人もの募集をかけているので、

緊急なのか事業拡大を目指しているのかとも

想像していた。只重役は”試用期間は3ヶ月とあるが

その期間は無給であり、貴女の能力とやる気を

見せてもらいますが、明日からでも来てください”

とあっさり採用するようであった。経理の女性も

親切そうだった。それにしても狭い部屋なのが
気になった。

『紅い雲行く 夕日の草原
たどる心やさしい 若き旅人よ
ごらんはるかな 空を鳥が行く
遠い故郷に聞く 雲の歌に似て
やがて深いしじまが星を飾るだろう
君の熱い想い出
胸にうるむ夢をうずめて
時は行くとも 命果てるまで
君よ夢を心に 若き旅人よ』

  加山雄三  旅人よ(2)


チャッピー物語(317)   ”男と女” 節子    

ハローワークで試用期間中も給与は

くれると求人用紙に書いていたのだが、ここで

変に揉めると印象が悪くなると思い節子は黙った。

いままでも実際の面接では条件を

下げられる事がよくあったからである。

そんな事は我慢するにせよ、

すぐに採用が決まるとは今までの経験から

考えられなくて、節子は確認した。

”ここで決定で良いのでしょうか

社長の面接はいつになりますか”

重役は”私に任されているのでいいですよ。

ここで良ければ来てください。採用します”

とにこやかに答えた。


チャッピー物語(コーヒーブレイク 18) タイの孔雀

良雄の悲しい運命により綾子が流転せざるをえなかった
シーンより思いだしたことがある。

作者が会社を定年で卒業する前に会社より
定年の慰労の為、ちょっとのお金がでて、家族で年末年始

タイに旅行した時のことだった。象に乗ったり海岸で
海中散歩でお魚と遊んだりして、夕方ホテルに
帰って来たときである。

南方らしくホテルで広い庭に孔雀を何匹も飼っていた。
孔雀に声を掛けたが無視された。ところが雌の孔雀が
近寄ってくると雄の孔雀はこれみよと7−8メートルもの羽を

精一杯ひろげた。夕日に照らされた羽は虹色にも
黄金にもキラメキ誇り高く輝いた。旅行はいい思い出だった。

ところが翌年の年末(2004年12月26日)スマトラ・インド洋
大地震が発生。数十万の人が亡くなり、100万も越す
人々が被災にあった。観光地、ホテルも壊滅状態になったそうだ。

丁度定年が1年後だったら、休みの多い年末に旅行し、
私達も多分巻き込まれたかもしれない。

それならば、このような物語も書けなかったし皆さんにも
会えなかったろう。運命の不思議さを感じ
助かったと実感したものだった。

それにしてもあの孔雀たちはどうなったろう。
今でも元気に誇り高く、虹色の、火の鳥のごとく
きらきらと大きな羽を広げているだろうか。


チャッピー物語(318)   ”男と女” 節子    

節子はやっと採用される事になったと

半年間の苦労がやっとかなえられたと

ジーンとしてきた。

そしてこれから勉強をしなくてはと

帰りに指定のソフトの本を購入した。

そして有頂天になって帰宅した。

そして守に報告した。”遂に採用になるのよ。

遂に就職出きるのよ。”節子は小躍りした。

守も子供たちも大変喜んでくれた。

ハローワークにも採用の連絡をした。

その日節子は、机に向かい勉強を始めた。


チャッピー物語(319)   ”男と女” 節子    

ところが1週間たっても会社の方から何の

連絡もないので、節子は不安になって、

会社に電話した。”それなら明日より

来てください”と経理の女性は、答えた。

この会社は正式に文書で採用通知を

しないのかなと

節子には若干の違和感があったが、

まあいろんな会社もあることだしと、

そのときは、明日から出勤という事で、

張り切った。化粧も衣装も

それなりに選んでいった。


チャッピー物語(320)  ”男と女” 節子    

翌朝節子は会社に着くと、経理部の

女性が待っていた。挨拶をしてから

指定された机に座り、案内を待っていた。

もう一人採用された男性も待っていた。

経理部の女性はパソコンを持ってきて、

”中にソフトの問題集があるので、

それで練習してください。”と指示された。

節子は購入した本で確認しながら、

ソフトの問題を実施しようとした時

驚いた。何とパソコンのキーボードが

磨り減って文字がほとんど見えないのだ。


チャッピー物語(321)   ”男と女” 節子    

節子は新しく入ったばかりなので、文句も

言えず、太陽の光に照らしながら、パソコンの

キーを斜めに見ながら、操作を始めた。

始めたばかりなので、ソフトも馴れないので

節子の操作は遅々と進まなかった。

昼から30歳台と思われる社長が来られ

節子も会釈した。 問題は中々解けず

節子も質問をしたが、”ここでは教えない、

自分でやる事になっている”と言われ、

節子は苦しみながら、取り組んでいった。

もう一人の新入社員も頑張っていた。


チャッピー物語(322)    ”男と女” 節子    

昼は近くの食堂で一人わびしく済ませた。

その後も節子は苦闘していた。ところが

通常は5時に退社になっているはずなのに、

4時過ぎくらいに社長から、”今日はもう

いいですから”と言われた退社した。

節子はこのままではいけないと思い

本屋に寄ってもう一冊,関係ソフトの本を

買って勉強を始めた。その日は

夜遅くまで取り組んだ。

翌朝定時の9時の15分前までに到着して、

節子は驚いた。


チャッピー物語(323)   ”男と女” 節子    

なんと会社の部屋の鍵が掛かり

開けられないのだ。皆が来ていないのだ。

みんなゆっくり来るのかなと節子は

寒い中表で待ったが、10分、20分、30分

待っても皆が来ない。自分が時間を間違えたのか

と見直したが、やはり9時開始であり、今日は出勤日だ。

節子はしびれをきらし、書類にあった社長に電話

して見た。社長は”ああそうか、しばらく待ってくれ”

といって、それから30分も待たして社長はやっと来た。


チャッピー物語(324)   ”男と女” 節子    

節子は若干不安になったが、まあこんな会社も

あるかと思い直し、机に座った。

やはり擦り切れたキーボードに向かって

節子は奮闘していった。

昨日来ていた男性は来てなかった。

相変わらず問題は難しく、買って来た2冊の

本を探しまくった。

昼前になって社長から話があるといわれた。

なんだろうと不安に駆られながら、

席についた。


チャッピー物語(325)   ”男と女” 節子    

社長は切り出した。”ところで貴女はわが社で

どう儲けてくれるのですか”と

節子は意味が分らなかった。”私は

御社の従業員として、指定された業務を

手伝うために来ていると思うのですが。

とても始めから自分で儲けるなんてーー”

社長は怒りながら”自分は全部の財産を賭けて

この会社を設立し、将来このように儲けたい

というビジョンを持っているのだ。その点

貴女は自分の財産も賭けずに、気楽に

来てようだが、せめて今後どう儲けさせてくれるか

を聞かせて欲しい。”と声を荒げ言った。


チャッピー物語(326)   ”男と女” 節子    

社長は憎憎しげに続けて

”あなたの仕事を見ているとパソコンの

操作は遅いし、本ばかりみているし、

やる気が見えないが。”

節子も言い訳はしたくなかったが、

”実はパソコンのキーがすり減って見えないし、
このソフトもやった事がないので、

勉強しようと本を買ってきたのですが”

”それならそういってくれたらいいのに”

節子はやっと”それに重役さんが

(この会社で 勉強して始めは分らなくても、
役に立てるように 頑張って欲しい。 採用します)

と言われたのですが”

と答えると、社長は顔色を変えた。

”直ぐに重役を呼びなさい”と


チャッピー物語(327)   ”男と女” 節子    

重役は直ぐに駆けつけた。社長は”この人は

従業員として採用されたといっているが

どうなんだ。” 重役も経理部の女性も

社長の剣幕をみて、この前と態度を一変した。

”決して採用したと言った覚えはないんですが

この人が来たいといったのでどうぞと

言ったまでですが。”

”それに3ヶ月試用は一応の目安といったので

本採用にいつまでかかるかわかりませんよ。

よく考えたらどうかと言ったんですが。”

社長もやっと得心して”あなたもよく考えたらどうですか”
と繰り返した。

『胸にしみる空のかがやき
今日も遠くながめ涙をながす
悲しくて悲しくて
とてもやりきれない
このやるせないモヤモヤを
だれかに告げようか』

悲しくてやりきれない(1)  ザ・フォーク・クルセダーズ


チャッピー物語(328)   ”男と女” 節子    

節子は察知した。(この会社は会社としての

体をなしてない。終了時間とか開始時間とか

それから採用したのか、採用しないのか

適当に、気分でやっている。大体20人も

本気で採用するなんて、事務所の広ささえもない。


適当に人を集めて自由に選抜したいのだろう。

いつから試用期間が過ぎて、本採用として、給与を

払うのかもはっきりとしない。しかしさすがに

止めてクレとは言わない。というのはハローワークと

悶着を起こすのを避けているのだ。あくまでこちらの

意思で止めさせる形を取りたいのだ)と。


『白い雲は流れ流れて
今日も夢はもつれわびしくゆれる
悲しくて悲しくて
とてもやりきれない
この限りないむなしさの
救いはないだろうか』

悲しくてやりきれない(2)  ザ・フォーク・クルセダーズ


チャッピー物語(329)   ”男と女” 節子    

節子はここにいても仕方が無いと考え、

”私にも考えさせてください”として椅子を立った。

なんという会社なのか、華やかなオフイスレデイに

復帰できると考えたのが間違いだったのだ。

書面でハッキリした契約書または内定書を

貰わなかったのもこちらのミスだった、

と思い返した。


翌日早速、会社より”残念ですが”という

お断りの封筒がとどいた。未だ面接段階で

断ったような形だった。

『深い森のみどりにだかれ
今日も風の唄にしみじみ嘆く
悲しくて悲しくて
とてもやりきれない
このもえたぎる苦しさは
明日も続くのか』

悲しくてやりきれない(3)  ザ・フォーク・クルセダーズ


チャッピー物語(330)   ”男と女” 節子    

節子はハローワークの担当者に経緯を

いった。担当者は”それは大変でしたね。

あの会社は今までにもおかしい事をやって

いるので懸念していたのですよ。抗議しましょうか”

節子は”もう結構です。あんな会社ともう

かかわりを持ちたくありません。それより次の

人に応募があったら、この会社はこんなところだと

はっきりと教えてやって下さい。”と言った。

節子はわざわざこんな会社に当たるとは、

自分が情けなかった。あせったお蔭で

自分がよく内容も吟味せずに食いついた

せいだった。同時に来た新人男性は1日で見抜いて

来なかったではないか。


チャッピー物語(331)   ”男と女” 節子    

実は会社から出て表へ出たとき、かの重役は

あわてて外に追いかけて来たのだった。そして

”貴女が謝るならば、社長にとりなしてもいいよ。

チョットいっぱい酒でもいこうか。”

重役は少しの罪悪案を感じたのか寄ってささやいた。

しかしそれを聞いて節子の意思は固まった。

”いいえ結構です。お断りします。私はなんの儲けも出来ません。

しかし悪い事はなんにもしてませんので、謝れません。

私も2児の母親です。どんなに貧しくも、子供に恥ずかしい

母親にはなれません。” 重役は”貴女は自尊心が強すぎるよ”

ぶつぶつ言ってたが、節子の意思を見てあきらめて去った。

節子は一寸の虫にも5分の魂があるという言葉を思い出し、

(私は私を人間として認められる所で働きたい。)
と決意していた。


チャッピー物語(332)   ”男と女” 節子    

節子はこの会社に断られたのを、

少しも後悔しなかった。こちらからこの会社に

見切りを付けた。こんなところにいては

自分が駄目になる。儲けなくても自分の誇りまでは

あくまで失いたくなかった。

儲け儲けと言う事で、いい加減に応募者を扱い

求人情報までごまかしているのだ。

何らかの人が吊り上げられると、値踏みして、

不要な人は直ぐに、追い出そうとしているのだ。


チャッピー物語(333)   ”男と女” 節子    

節子は家に帰り守に全部話した。

守も優しく、”そうかそれはひどい目にあったね

まあ、いろんな会社もあるから、しばらく

休んで、また探してみたら”と行った。

節子はこの時いつも冗談ばっかり言っている

守にもどれだけしんどい日々もあるのかと、

新ためて見直した。守が支えるこの家庭と

子供はどこまでも守らなければとさらに決めた。

同時に、自分自身に自信を付けて、

社会から請われるような実力を身に付けなければと、

どこか学校へでもいこうかと思っていた。


選ばれるだけではなく、自分も選ぶこともしなければ

と節子ははるかに強く賢明になっていた。


チャッピー物語(334)   ”男と女” 節子    

ところで守はやはり今度も一言多かった。

”節子は昔バレーボール部にいたそうだね。

いつも飛びつくのは名人だな。

いつもバーゲンやら安売りでいらない物を

安かった、儲かったといって使いもせず、

結局押入れがいっぱいだよ”

節子ーー”すみませんね 今度からよく

吟味して買い物をしますからね。”

子供達が寄ってきて、”隣のミヨちゃんの持っている

おもちゃを、ぼくらにも買ってよ。”


チャッピー物語(335)   ”男と女” 節子    

節子ーー”この間買ったばかりじゃないの

ミヨちゃんの持ってないのもあるじゃないの

あれはどうしたの、あれで遊びなさい”

守ーー”子供には子供なりの世界があるのだろう。

あまり抑えつけてばかりじゃいかんのじゃないかなあ。”

節子ーー(子供にはすぐに甘い顔をするなんて

それにおもちゃといっても、すぐに取上げて、

ほとんど遊ぶのは守の方じゃないの

ほんとに調子のいいやつ!  もう!!)


チャッピー物語(336)   ”男と女” 竜崎  
  
雑誌社の話に戻る。

竜崎は雑誌の好調に支えられて忙しい

毎日を送っていた。そして今を契機に

今までの雑誌を販売増しようという機運が

盛り上がり実現計画を練っていた。

竜崎は教育を任された健二についても

この計画に参加させたいと思っていた。

竜崎からみて健二は社会人の常識はずれ

が多いので、教育に時間をかけなければ

いけないとは思っていたが、何時までも

待ってばかりもいられなかった。実務を

担当させながら自覚をうながしたかった。

『幸せが住むという
虹色の湖
幸せに会いたくて
旅に出た私よ
ふるさとの村にある
歓びも忘れて
あてもなく呼びかけた
虹色の湖』

虹色の湖(1)  中村晃子


チャッピー物語(337)   ”男と女” 竜崎    

編集部などの他部門に依頼すべき問題なども 検討し、

販売増のある程度の粗計画を

作成したので、まず販売部内で

会議を持ち、計画の方向性を

検討することにした。そして健二にも

参加を命じた。自分ひとりだけの

説得と教育なりでは限界もあるので、

多くの部員との交流を通じて、

成長をしてもらおうと計ったつもりだった。

『さよならが言えないで
うつむいたあの人
ふるさとの星くずも
濡れていたあの夜
それなのにただひとり
ふりむきもしないで
あてもなく呼びかけた
虹色の湖』

虹色の湖(2)  中村晃子


チャッピー物語(338)   ”男と女” 竜崎    

会議では竜崎の計画の説明で

始まり、部員の質疑応答があり、

ほぼ部長の竜崎の意向どうりにいく

ことになり微調整を皆に任せることになった。

竜崎の今までの経験では計画段階から、

皆の参画をさせた方が結局旨くいくことが

分っていた。上意下達でも表面上はいいが

部員がはじめから参画したほうが

自分の仕事としてとらえ、発言が採用されたりすると

責任感が全然異なってくるのだ。

『虹色の湖は
まぼろしの湖
ふるさとの思い出を
かみしめる私よ
帰るにはおそすぎて
あの人も遠くて
泣きながら呼んでいる
まぽろしの湖』

虹色の湖(3)  中村晃子


チャッピー物語(339)   ”男と女” 竜崎    

最後に黙って聞いていた健二に”なにか

ないか”と竜崎は水をむけた。

健二にも皆と同様に参画して欲しかったのだ。

健二は促されたまま、発言しだした。

”ところで何か販売増目標が5千部とありますが

どうしてこういうことになったのですか。

竜崎は”それは良い質問だ”と余裕をもって

答えたがこれがとんでもない事になるのが

後になって分った。


チャッピー物語(340)   ”男と女” 竜崎    

竜崎は今までの雑誌の販売状況と

今回とり込もうとするユーザの希望は

こういう傾向があり、と得々としゃべりだした。

健二はフンといった態度で聞いているようで

聞いてなかった。

”部長の言う事はいままでの当社の実情から

計算しただけではないですか”

”本当にわかるためには綿密な市場調査を

すべきではないか。

その為には専門家に依頼し調べてもらう必要が

あるでしょう”


チャッピー物語(コーヒーブレイク) (19)山陰

綾子が山陰に流れていくシーンがあったが
作者にも思い出があったからである。

若き頃京都で学生時代を過ごし、就職先も何とか決まり

後輩(男性)と卒業記念に山陰に行ってみようということに

なった。行路は忘れたが、天の橋立とか、梶井基次郎の作品での

有名な城崎にもいった。本当に温泉らしいひなびた情緒が
漂っていたと思う。 日本海に回ると鬼が島伝説もある海岸で
本当に荒海でオドロオドロシイ海であった。鳥取砂丘もそのとき
に行ったのか定かではないが。

各駅停車でのんびりと、夜も更けてきたので
確か久美浜で降りたと思う。空がどんよりしてきて
人気もなく、なにか恐ろしい気分になったが旅館も見当たらない。

ようやく通りかかったお婆さんに
旅館はどこにあるか聞くと、教えてくれたが、大分遠いので
”家に泊まっていいよ”と話してくれた。しかし私は感謝しながらも
丁寧にお断りして、旅館に向かった。その夜、後輩は私に
”もうすぐ社会人になるので人の情けに、すがらないのですね”と言われた。
後輩はまだ学生なのでほいほいとついて行きたかったそうだ。

ただそれだけのことだが、恐ろしい海と薄暗い夕暮れとお婆さんのことが
今でも印象に残り、物語の背景に選ぶことになったのだろう。


チャッピー物語(341)   ”男と女” 竜崎    

今度は健二がとくとくとしゃべりだした。

”それに宣伝をどれだけするのか

それによって販売は最も変るのでは。

インターネットなり、電車の中、コンビニ

新聞の折込チラシなり、そしてテレビに

宣伝するのですよ。古いぼけた頭では考えられないような

需要がどんどん掘り起こせると思いますよ。
それもしなければ他社に出し抜かれてしまいますよ”

”それにコマーシャルには有名人をだしたらいいな
マイケルジャクソンとか市川海老蔵とかそれに

イチローも欠かせないな。

上戸彩もいいがこれからは長澤まさみあたりかな”


チャッピー物語(342)    ”男と女” 竜崎
    
”そんなことをいっても当社には限界が

あるしな”竜崎が防御に回っていた。

あまり多大な目標を建てて旨くいかないと、他の重役の

手前もあるし、失敗とみられかねないのだ。

健二は”そんなことを言っているゆえに

くだらない企画に終わるのですよ。

皆さんは何年もやってきたプロでしょう。

そこを課題を乗り越える知恵をだすのが
プロのプロたる所以でしょう。”

先輩達は皆苦々しく黙り込んだ。実情を知らない

健二に言いたいほうだい言われているのだ。


チャッピー物語(343)   ”男と女” 竜崎    

それと共に普段竜崎重役に押さえつけられて、

こらえている社員にとっては(いい気味)と

思っている人も多かった。人の喧嘩は

大きければ、大きいほど面白いのだ。

それと共にこういう場合どう竜崎が

答えるかを皆が注目しているのを

竜崎はすばやく感じていた。

(どういう風に説得させるか)を問われているのだ。

(ここで闘うのは自分だけなのだ)と。

いつものように”それを考えるのは

君らの仕事だよ”とかと逃げたり、”俺に向かって

何を言うか”といって恫喝して権威で

押さえつけることも出来ないのだ。

あくまで相手は新人だし、自分は

重役なのだ。(落ち着け、落ち着け、理屈でおだやかに

説得するのだ。)と心でつぶやいていた。


チャッピー物語(344)   ”男と女” 竜崎    

竜崎は”君の言う事も最もな事だ

コマーシャルはすればするほどよいのだが、

しかしうちのような小さな会社にとって

宣伝費用はそうも懸けられないのも事実だ”

それと宣伝にコストを懸け過ぎて、

販売単価の値上げにつながるような

過去のようなことも出来ないのだ。

極端にいえば社業の傾きにもつながるのだ。

しかしながらどうやって販売増していくか

これからみなで解決していこう。”

”販売増目標は計画どうりにいく。

目標を超せばそれに越したことがないから”

と苦し紛れに答弁せざるを得なかった。


チャッピー物語(345)   ”男と女” 竜崎    

一方竜崎はこれくらいの話しで、ベテラン社員を納得

させるには物足りないのだはないかとも考えていた。

費用対効果など単純すぎる話なのだ。

しかし結論は出さねばいけないのだ。あいまいさは

一番いけない。全ての責任は自分が取ると言い切った。

会議は何とか終わったが、竜崎はどっと疲れがでた。

そしてこれから健二をどうするかを、考えた。

変に無視したり、冷遇したりすることは

したくなかった。健二には常識に欠ける点は

あるが、何か本質を突くところもあると

思い直した。ただこのままでは会社にとっても

部内の同僚に対しても、本人にとっても

良くないことであろうと思っていた。

竜崎の苦悩はつづいた。


チャッピー物語(346)   ”男と女” 徹夫   

徹夫の話に戻る。

徹夫のカメラで取った写真の雑誌が売り出された。

読者は度肝をぬかれた。そしてたちまち評判を

よび雑誌の好調な売行きにつながった。

通常雑誌に載せる写真の景色などは、良くても

刺身のツマくらいである。それが今回は読者が

徹夫が乗せている雑誌を一目見ようと

買い求めてくるのである。

それと共にマスコミも注目を始めた。


チャッピー物語(347)   ”男と女” 徹夫   

徹夫の写真は日本の各種の名所を

写したものである。通常それらは非常に

景色よく、見る人に感動を与え

綺麗だとか、ここに旅行したいなとか、

思わせるのが大半であった。

徹夫の写真も勿論そんな要請には

答えていた。がどこか違っていた。

なにか懐かしい気持ちにさせるのである。

それとダイナッミクな感じを与えるのである。

『思いこんだら 試練の道を
行くが男の ど根性
真っ赤に燃える 王者のしるし
巨人の星を つかむまで
血の汗流せ 涙をふくな
行け行け飛雄馬 どんと行け』

巨人の星(1) 行け行け飛雄馬


チャッピー物語(348)   ”男と女” 徹夫   

それはその景色に現在の描写と共に

過去の景色も表現しているのである。

通常雑誌の写真は過去の内容が載っている

場合もある。それは現在の景色と共に

別の写真が並列にならべている。

しかし徹夫の写真は1枚の中に過去と

現在が混在し、現在の写真と思っていると、

みように依っては過去の風景にも

なるのである。しかもいつの間にか、

未来をも予想させるのである。

それはだまし絵的手法とも異なるものだった。


『腕も折れよと 投げぬく闘志
熱球うなる ど根性
泥にまみれ マウント踏んで
勝利の凱歌を あげるまで
血の汗流せ 涙をふくな
行け行け飛雄馬 どんと行け』

巨人の星(2) 行け行け飛雄馬


チャッピー物語(349)   ”男と女” 徹夫   

すなわち1枚の写真に過去現在未来を

混在させしかも時間の流れを読者の

思いに依ってゆるやかに移動させるのである。

若い人が現在を見て、過去の姿が分り

中年の人は昔と現在を比較でき、

また識者にとっては未来を予感させる

出来栄えになっているのである。

その境めというのは定かでなく、しかも

おぼろげでもなく、いつもまにかにその

流れのワールドにひたれるのである。

『やるぞどこまでも 命をかけて
父ときたえた ど根性
でっかく生きろ 剛球燃えろ
男の誓いを 果たすまで
血の汗流せ 涙をふくな
行け行け飛雄馬 どんと行け』

巨人の星(3) 行け行け飛雄馬


チャッピー物語(350)   ”男と女” 徹夫   

読者たちはこの様な写真がどうしてとれるのか

と聞いて来た。

マスコミもこの人気に目を着け

徹夫にインタビューするようになった。

どうしてこのような写真が取れるのかを

徹夫に尋ねるのである。

徹夫は質問にも”それはなんとなくできるのですよ”

あいまいに答えていった。

徹夫自身としては、喫茶店での3重写し、わずか5分の

中に秘められた”喝采”、ウラシマ効果、

鉄腕アトムの時間の経過による想像性、
マリリンモンローの写真などが合い間って

自分の「世界」を作り上げてきたのだが、

それは秘めていた。というよりも無意識に出来るのだ。

そのこともあり、徹夫自身の風貌、雰囲気と

あいまって、その魅力と不思議さを称し

”4次元シャッター”そして”秘伝のシャッター”
と呼ばれるようになった。

それらがファンを夢中にさせた。

そして個展を開くような要請もでてきた。


チャッピー物語(番外)    作者より(16)  

皆様のお蔭で350回を向えました。

ありがとうございました。

2006年9月より

はじめましたのでもう1年以上にもなりました。

あまり長いと皆さんにも飽きられるし、ネタもつきるので、

390回くらい(2−3月頃)で終了になると思います。

勿論何か新しい発想が浮かべば別ですが。


チャッピー物語(番外)   作者より(17)  

それにしても、主人公は始めは

徹夫と綾子だけだったのですが、

高子、早紀、節子、竜崎なども

ほとんど主役であるようになってきた。

そして順三、健二、柿沢、敏江、千佳子なども

脇を固めているようだ。

これらの人々が恋愛感情、親子の情、出会いと別れ

仕事などを通して悩みながら生きそして喜びの日々など

いつのまにか”人生賛歌””人間賛歌”になっていると思うが

いかがでしょうか。大げさな言い方かも分りませんが。


チャッピー物語(351)   ”男と女” 徹夫   

そんな時、早紀から電話が掛かってきた。

どこか沈んだようすだった。

前に会ったときから2ヶ月以上はたっていた。

”是非あってお話したいのですが

徹夫さんにも関わることなので”

徹夫は”私に?”と聞いたが、”電話ではこれ以上は”と

いう早紀の言葉にそれ以上聴けず、

数日先を予定した。

一番星に祈る それが私のくせになり
夕暮れに見上げる空 心いっぱいあなた探す
悲しみにも 喜びにも おもうあの笑顔
あなたの場所から私が
見えたら きっといつか 会えると信じ 生きてゆく』

涙そうそう(2)  夏川りみ


チャッピー物語(352)   ”男と女” 早紀   

数日後、徹夫は早紀にあった。

早紀は沈んだ様子で切り出した。

"綾子が行方不明になったこと、

それと良雄さんが事故で無くなったこと。 "


徹夫は驚いた。綾子のことが気がかりだったが、

思いは千々に乱れ、会いに行くことはためらっていた。

早紀にしても田舎の両親から知らされてなかった。

両親は良雄の事でまた早紀に打撃を与えないように

気を使っていたのだ。

『晴れ渡る日も 雨の日も 浮かぶあの笑顔
想い出遠くあせても
さみしくて 恋しくて 君への想い 涙そうそう
会いたくて 会いたくて 君への想い 涙そうそう』

涙そうそう(3)  夏川りみ


チャッピー物語(353)   ”男と女” 早紀   

早紀はたまたま田舎の友人に電話を

したときに聞かされたのだった。

綾子の依頼で高峠へ黒百合の花を

取りにいく途中で谷から墜落して

亡くなっていた事を。

そして葬儀後、綾子は失踪した事を。

早紀には今では遠い人だと思っていても、

いざ亡くなったと聞いては心穏やか

ではなかった。

そして徹夫にも連絡すべきと思ったのだ。

『麦わら帽子のような
匂いをさせて
私を海辺へつれて
走った人よ
光の中をもつれるように
はずんだ胸は熱かったわね
懐しがっても遠い
夢の人なの』

小川知子   初恋の人(2)


チャッピー物語(354)    ”男と女” 早紀   

早紀は詳しい事は、温泉の仲居をしている

千佳子さんが知っていると徹夫に伝えた。

徹夫は早紀の心中を推し量りながら、

”いろんなことがあるな、君も苦労するな

でもこれからも、身体だけは大切にね”

徹夫は早紀が偲ぶ相手は良雄であったと見ていた。

ところが綾子の出現が早紀の運命も変えた

のだろう。そしてその痛手を忘れていたのに、

こんなことになったのだ。

早紀と別れた後、徹夫は今度こそ温泉に

行って状況を確かめようと思っていた。

『小麦色した
あの日の笑顔
私一人が知っているのに
今なら恋だと分る
はるかな人なの』

小川知子   初恋の人(3)


チャッピー物語(355)   ”男と女” 徹夫   

徹夫は早紀に教えてもらった住所で

北国の綾子のいた温泉を目指した。

事前に予約をして、泊まることに
なっていた。

もう春になるとはいえ、さすがに

寒く夜汽車ともなると、外には多くの

雪が降ってきた。駅についてタクシーに

乗ると、当地では有名であるらしく

運転手はすぐ理解した。

運転手の当温泉の若旦那のことを

それとなく聞いたが、運転手は口ごもりながら

言い出した。


チャッピー物語(356)    ”男と女” 徹夫   

運転手も温泉にはよく客を運ぶので

自分の口から聞いたことは内緒に

して欲しいといいながら

あの時大変だった事

若旦那の良雄さんが高峠で遭難して

行方不明になった事。

大規模な捜索をしたんですが、甲斐なく

事故に合い亡くなっていたこと。
何か仲居の頼みで行った事。

やはり子孫以外のものが高峠に手をだすと
怖い事になるという話。

その仲居も失踪したことを徹夫は聞いた。

『船を見つめていた
  ハマのキャバレーにいた
  風の噂はリル
  上海帰りのリル リル
  あまい切ない 思い出だけを
  胸にたぐって 探して歩く
  リル リル どこにいるのかリル
  だれかリルを 知らないか』

上海帰りのリル(1)   津村謙


チャッピー物語(357)   ”男と女” 徹夫   

徹夫も事前にある程度早紀に聞いてはいたが

詳しい話は仲居の千佳子に聞けばという

ことを教えてもらっていた。

旅館につくと、その地方では由緒ある

温泉というだけ、造りもしっかりとし、

仲居の応対もさすがというものがあった。

番頭代理の時枝も挨拶に来た。

女将の園子は具合が悪いので失礼して

時枝にまかせ来なかった。

そして庭園もさすがというものがあった。

『黒いドレスをみた
  泣いていたのを見た
  戻れこの手にリル
  上海帰りのリル リル
  夢の四馬路の 霧降る中で
  なにもいわずに 別れたひとみ
  リル リル 一人さまようリル
  だれかリルを 知らないか』

上海帰りのリル(2)   津村謙


チャッピー物語(358)   ”男と女” 徹夫   

すでに時間も遅かったので、

明日千佳子という仲居を呼んで欲しいと

言う事でその日は湯船につかった。

豊富な湯量で身体を癒しながら

徹夫はここで綾子が働いていたのだと

でも今ごろはどうしているのだろうかと

就寝をしてもなかなか寝付かれなかった。


 
『海を渡ってきた
  ひとりぼっちできた
  のぞみすてるなリル
  上海帰りのリル リル
  くらい運命は 二人で分けて
  共に暮らそう 昔のままで
  リル リル 今日も逢えないリル
  だれかリルを 知らないか』

上海帰りのリル(3)   津村謙


チャッピー物語(359)   ”男と女” 徹夫   

翌朝千佳子がやってきた。

徹夫はここに仲居としていたか上条綾子の

事を教えて欲しいがと直接切り出した。

温泉側としても、若旦那の件に関わってくるので

千佳子もしぶっていたが、徹夫は自分は

綾子の元の相手である事をあかした。

(大阪でこのように共に生活していた事。

分かれた後行方不明になったが、早紀に

会ってここを教えてもらった事。

そしてカメラマンとして、雑誌にも

搭載されている事)を、実物を見せて

千佳子の警戒を解いた。


チャッピー物語(360)   ”男と女” 徹夫   

千佳子はそういうことならと得心がいき

メモを持ってきた。それは綾子が

温泉を後にしたときの言葉が書いてあった。

”今まで長らくお世話になりました。

この度は全て私のせいで大変な事に

なりました。おわびのしようもありません。

すべて私の責任です。お世話になりました。

恩返しせもせず,勝手ですが

ここを立ちます。さがさないで下さい。

遠くで皆さまの御健勝を祈っております。”

『やっぱり器用に 生きられないね
似たような二人と 笑ってた
鳳仙花 鳳仙花
はじけてとんだ 花だけど
咲かせてほしいの あなたの胸で』

鳳仙花(1)  島倉千代子


チャッピー物語(361)   ”男と女” 徹夫   

丹精な筆記であり徹夫はすぐに

綾子の書いたものであると分った。

それから綾子がこの温泉でどのように

過ごしていたのかを千佳子に聞いた。

(馴れない仲居の仕事で苦労していた事

仲間とか仲居頭にいじめられていたこと。

良雄さんに求婚されていたこと。

主人や女将にも信頼されて認められていた事

いつも千佳子のことにも気配ってくれた事。

そして高峠で良雄さんが事故にあった後、

千佳子は止めたけれども、失踪した事など。)

『ふいても消せない ネオンの匂い
やさしいあなたが こわいのよ
鳳仙花 鳳仙花
日陰が似合う 花だけど
つくしてみたいの あなたのそばで』

鳳仙花(2)  島倉千代子


チャッピー物語(362)   ”男と女” 徹夫   

徹夫は千佳子の話を聞くたびに、

驚きと共に、綾子の性分を少なからず

知っているので、その行動なり

心情を理解できた。

それと共にいずこの地に行って

今はどう過ごしているのかを案じていた。

千佳子にもお礼を述べて旅館を出た。

主人とか女将にも挨拶しようかと

思ったが今は返って混乱を増すと思い

千佳子には自分の事を内緒にするように頼んだ。

一応自分の連絡先を教えておき、何かあればと

さらにお願いしていた。

そして早紀にも伝えなければと思っていた。

『おおきな夢など なくてもいいの
しあわせ短い 一年草
鳳仙花 鳳仙花
いのちのかぎり 街の隅
わたしも咲きたい あなたと二人』

鳳仙花(3)  島倉千代子


チャッピー物語(363)   ”男と女” 千佳子   

千佳子は数日この事を黙っていたが、

もともとおしゃべりな性格であり、

自分のおなかにためては置けなかった。

それと主人と女将には伝えておかないと

なにかあったら大変だということもあり、、

万一にも綾子の所在が分ればといった事を

千佳子なりに考えていた。

そして主人の順三に相談した。

そして女将の園子にも伝わった。


チャッピー物語(364)    ”男と女” 綾子  

綾子の話に戻る。

バーの一角で綾子は相変わらず

酒に明け暮れていた。お客も少ないなか

悲しみを忘れる為には酒しか無かった。

そして時々せき込むようになってきた。

客の中に1人の中年の男性がいた。
特に話をするわけではなく、黙って

少しだけ飲んでは帰っていった。

暴れるとか、ホステス目当てとかいう

いやな客ではなかった。

時々汽船が通り過ぎるのが見えた。


『忘れてしまいたいことや
どうしようもない悲しさに
包まれたときに女は
泪(なみだ)みせるのでしょう
泣いて泣いて ひとり泣いて
泣いて泣きつかれて 眠るまで泣いて
やがて女は 静かに眠るのでしょう』

川島英吾  酒と泪と男と女(2)


チャッピー物語(365)    ”男と女” 綾子  

有線では八代亜紀の”舟歌”が流れていた。

その歌を聴きながら昔みた映画を思いだしていた。

高倉健の”駅ステーション”であった。

高倉健の役は警察官でピストルの名手であり、
終りのシーンには、歌が流れ、それが八代亜紀の「舟歌」である。

大晦日の酒場のシーンで、テレビは紅白歌合戦を放映しており、

そのテレビからこの歌がながれてくる。

高倉健はこの歌を聞きながら、倍賞千恵子の酒場を出て、

1人駅に向うのである。

そして綾子は倍賞の役と自分の立場と重ね合わした。
いつのまにか涙ぐんでた。

『お酒はぬるめの 燗がいい
肴はあぶった イカでいい
女は無口な ひとがいい
灯りはぼんやり 灯りゃいい
しみじみ飲めば しみじみと
想い出だけが 行き過ぎる
涙がポロリと こぼれたら
歌いだすのさ 舟唄を
沖の鴎に深酒させてョ
いとしあの娘とョ 朝寝する
ダンチョネ』

八代亜紀  舟歌(1)


チャッピー物語(366)    ”男と女” 綾子  

男は何処か孤独な感じを受けたが

別に怒りもせず、愚痴をこぼす事も無く、

黙ったままでグラスを傾けていた。

男の名前は安西といった。

昔は炭鉱で鳴らしたそうで、筋肉質の

体型をしていた。そしてその後船乗りにも

なって外国航海もしたそうだ。

綾子は軽く咳を繰り返していた。

『店には飾りがないがいい
窓から港が 見えりゃいい
はやりの歌など なくていい
時々霧笛が 鳴ればいい
ほろほろ飲めば ほろほろと
心がすすり 泣いている
あの頃あの娘を 思ったら
歌いだすのさ 舟唄を

ぽつぽつ飲めば ぽつぽつと
未練が胸に 舞い戻る
夜ふけてさびしく なったなら
歌いだすのさ 舟唄を
ルルル…』

八代亜紀  舟歌(2)


チャッピー物語(367)   ”男と女” 綾子  

安西は時々来ていたが、静かな客として

綾子は遇した。特に親しくは無かったが、

ある時綾子の美貌に、目をつけた若い客がいた。

酔って今晩付き合えとからみ

綾子を放そうとしないのだ。

客のこととて邪険にできず綾子も

困っていた。若者は図に乗って

弱い綾子に抱きつき、

引っ張りだそうと乱暴に扱った。


 
『窓をあければ 港が見える
  メリケン波止場の 灯が見える

  夜風汐風 恋風乗せて
  今日の出船は 何処へ行く
  むせぶ心よ はかない恋よ
  踊るブルースの 切なさよ』

  別れのブルース(1)  淡谷のり子


チャッピー物語(368)   ”男と女” 綾子  

安西は若者に一喝して言った。

”こら!!若造!女が嫌がっているじゃないか!

手を離さんか。なんなら俺が相手になってやるぞ!

”死にたいのか!”

安西の普段と違う、その迫力に若者は

恐れてホウホウの態で逃げ帰った。

目に血刀が走っているようだった。

若者はなにか刃物で、刺されそうな気がしたのだ。

安西の行動と風貌を

ホステス達は噂しあうようになった。

『腕に錨の 刺青ほって
  やくざに強い マドロスの
  お国言葉は 違っていても
  恋には弱い すすり泣き
  二度と逢えない 心と心
  踊るブルースの 切なさよ』

  別れのブルース(2)  淡谷のり子


チャッピー物語(369)   ”男と女” 綾子  

それからは綾子も安西とは、

打ち解けていった。安西が来ると

その時の恐ろしさに、緊張もしたが

それと共になんとなく安心感が広がるのだ。

それはなにかと考えたら、綾子の今は亡き

父親に対するような感情だった。

安西もポツリポツリ話し出した。

炭鉱のこと、航海のこと、そして

株に手を出して大もうけしたり、

失敗もしたりと。連れ合いはいないようだった。

今はマンションを持って暮らしを立てているようだ。


チャッピー物語(370)   ”男と女” 綾子  

綾子も安西には少しずつ話し出した。

自分の心だけに持っていると、気が狂いそうな事も、

聞いてくれる人がいるだけで

休まるのだ。安西は特に意見とははさまずに

ただ頷いているだけなのだ。他人にばらまくような

人ではないし、身体のすぐれない中でも綾子は落ち着けた。

人は人によって傷つけれもするが、また

ひとによって癒されもするようだ。

しかしながら綾子は身体が重たいのを感じていた。

時々、汽笛の音が聞こえてきた。


チャッピー物語(コーヒーブレイク) (20) 劇中劇
 
綾子が安西とテレビ映画 ”駅ステーション”を

見ている場面があるが、映画の中で高倉健と倍賞千恵子が

”紅白”の八代亜紀の"舟歌"を聞いてシミジミと思いにふけって

いるものである。それを映画の鑑賞者が主人公の高倉健と

倍賞千恵子の思いにも感情移入するのだろう。その場面を

この物語に取り入れているが、皆さんもいかがお思いでしょうか。

劇中劇の方法は共感を広く広げ、多重に味わいを深くするのだろう。


チャッピー物語(コーヒーブレイク)(21) 歌中歌

八代亜紀の舟歌が”駅.ステーション”に使われていると

述べたが実は舟歌自身にもダンチョネ節が

使われている。そして元歌を知っているフアンに元歌の

良さと、この歌も親しまれることになるのであろう。

ちなみに、坂本冬美のデビュー作”あばれ太鼓”も

背景に村田英雄の”無法松の一生”の小倉の松五郎がいるのであるが

 歌のうまい坂本冬美ならなんでも歌えるし、

今風の歌を期待していたので、違和感を覚えたそうだが

師匠の猪俣公章はどうしてもといってこの歌にした。

今日の坂本冬美はこの選択に感謝しているそうである。

『どうせ死ぬときゃ裸じゃないか
あれも夢ならこれも夢
愚痴はいうまい 玄海そだち
男命を情けにかけて
たたく太鼓のあばれ打ち』

 あばれ太鼓  坂本冬美


チャッピー物語(371)    ”男と女” 高子  

高子の話しに戻る。

作家柿沢に依頼した納期が近づいてきたので

電話で確認をとった。普通の作家なら部下に

やらすなり、原稿を持参して貰うのだが、

柿沢の場合は、編集長自ら取りにいくのだ。

メールの時代でもあるが、原稿用紙に直接

書くような柿沢のスタイルはそうも行かない。

高子は電話で柿沢に連絡を取った。


『あなた おまえ
呼んで呼ばれて 寄り添って
やさしくわたしを いたわって…
好きで一緒に なった仲
喧嘩したって
背中あわせの ぬくもりが
かようふたりは ふたりは二輪草』

二輪草(1)  川中美幸 


チャッピー物語(372)   ”男と女” 高子  

柿沢は在宅しており、すぐに電話に出た。

高子は挨拶の後、”予定の原稿はいかがでしょうか

締め切りも近づいたので、取りに伺いたいのですが”と

柿沢に問い合わせた

柿沢は”もうできている”と言う事で、

”明後日の7時に伺いたいが

如何でしょうか”と確認し、日時は

決まった。

『ほうら ごらん
少しおくれて 咲く花を
いとしく思って くれますか…
咲いて清らな 白い花
生きてゆくのに
下手なふたりが さゝやかな
夢をかさねる ふたりは二輪草』

二輪草(2)  川中美幸 


チャッピー物語(373)    ”男と女” 高子  

当日夜7時前に高子は柿沢邸について、

ベルを押した。お手伝いさんに案内された

書斎に柿沢はいたが、直ぐに叱正が

飛んできた。”君は時間もまともに守れないのか

昼間に来ると言っていたのに夜になって

しかも遅れる連絡もない。それでも

編集長か ! 辞めてしまえ!”   

高子は始め何の事かわからなったが、

柿沢の話によるとどうやら昼の1時の約束だった

らしい。その時高子は念のため7時(ななじ)ですねと

確認をとったはずだ。

『おまえ あなた
春がそこまで 来たようだ
よかった一緒に ついて来て…
雨よ降れ降れ 風も吹け
つらいときにも
生きる力を くれるひと
どこに咲いても ふたりは二輪草』

二輪草(3)  川中美幸 


チャッピー物語(374)   ”男と女” 高子  

高子はそれを主張したが柿沢は聞き入れない。

たしか7時(ななじ)と再度いった時”うんうん

分った”といったのに。どうやら耳が遠くなったらしい。

それと共に小説家の特有性として、自分の言う事には

すごくこだわるが、他者の言う事は聞いてないことが

多いのである。ここで言った言わないと争うのは

まずいと高子は考えて謝った。柿沢はくどくど

高子の揚げ足取りを始めた。どうやら女の

立場で編集長など生意気と取り、気に入らないのだ。

『海猫が鳴くから ニシンが来ると
赤い筒袖の やん衆がさわぐ
雪に埋もれた 番屋の隅で
わたしゃ夜通し 飯を炊く
あれからニシンは どこへ行ったやら
破れた網は 問い刺し網か
今じゃ浜辺で オンボロロ
オンボロボロロー
沖を通るは 笠戸丸
わたしゃ涙で ニシン曇りの 空を見る』

石狩挽歌(1)  北原ミレイ  


チャッピー物語(375)   ”男と女” 高子  

高子は”私の不注意で遅れまして申し訳

有りません。今後注意いたします。”

と謝った。柿沢はそれでもくどくどと

止めなかったが、お手伝いさんがお茶を

もってきた時に、やっと繰言を止め、

目的の原稿を出してきた。

ちょっと少ないのが高子には気になったが

頂戴してぱらぱらと読み始めた。

なにか不安を感じていた。

『燃えろ篝火 朝里の浜に
海は銀色 ニシンの色よ
ソーラン節に 頬そめながら
わたしゃ大漁の 網を曵く
あれからニシンは どこへ行ったやら
オタモイ岬の ニシン御殿も
今じゃさびれて オンボロロ
オンボロボロロー
かわらぬものは 古代文字
わたしゃ涙で 娘ざかりの 夢を見る』

石狩挽歌(2)  北原ミレイ  


チャッピー物語(376)   ”男と女” 高子  

柿沢の原稿を見ながら、高子はさすがにと

頷いた。直木賞を取ったのはもうすでに

10年くらい前ではあるが、その瑞瑞しさ

はすこしも失われず高子はこれは

いけると思った。

しかしながら、読み始めて10ページで

終わっていた。高子は”素晴らしいできばえですね

これは読者も喜びますよ”とお世辞でなく、本心で

言いながら、”先生、後半部分も見せていただき

たいとおもいますが”と柿沢に問うた。


チャッピー物語(377)   ”男と女” 高子  

柿沢は”10ページ書いているだろう。これが

今月分だ。”と答えた。高子は

”いえ先生、始めの約束で毎月20ページと

契約した筈ですが。”柿沢はまた怒り出した。

”君は時間を誤魔化すだけでなく契約も

ごまかすのか。”

高子ははっと思った。そうか耳が遠くなっているのだ。

20ページを10ページと聞いているのだ

念のため契約書を別途柿沢に送ったはずだ。

控えを開けて再確認すると確かに

毎月400字詰め原稿20ページと書いている。


チャッピー物語(378)   ”男と女” 高子  

柿沢に契約書を見せて、”あの時

このように20ページと契約していますが”

と高子は言った。柿沢はメガネを何回も

変えて確かめた。そして20と書いているの見て

”こんな小さな字で私がわかると思うのか”と

居直った。確かに視力が落ちた人には文字が小さい

ようだ。それにさらに柿沢は迫った。

”君はあの時毎月10ページと言ったから

私は納得して契約したのだ。君が勝手に

20としたのだよ。”と居直った。


チャッピー物語(379)   ”男と女” 高子  

柿沢はその時のことを言い張っただけでは

無く”10ページのところを20ページとこんな

分りにくい文書を送り、ノルマを知らぬ間に

上げて、誤魔化したりして、

本当に信用出きんやつだ。

なんなら社長に出てもらおうか。

裁判にかけてもいいぞ。”と

柿沢はすごんだ。


チャッピー物語(380)    ”男と女” 高子  

高子はこれ以上言い争っても無駄だと感じ、
”私のミスでした”と誤り、今後とも

10ページをお願いした。今更、柿沢に言っても

仕方が無いのだ。第3者の証明もないし、

柿沢の印も押していないのだ。もっとも

契約などはこの業界にむかないのが多い。

特に著名な作家との間には。

高子は今月の空いた10ページを

短時間にどう埋めるかに

頭を悩ました。ボツにした原稿を

採用するか、それは雑誌の質を落とす事に

なるし、人気の徹夫のページを

増やそうかとも考えた。それにしても

柿沢との間には今後とも大変不安を覚えた。

徹夫に相談しようかとも考えた。


チャッピー物語(コーヒーブレイク)(22) 歌中歌2

こまどり姉妹の歌の中にも
”ソーラン渡り鳥”というものがある。勇壮だがどこか
物悲しいソーラン節を下地にして、双子特有の
節回しで圧倒的人気を集め、紅白に何回も出場した。

同じ双子のザ.ピーナッツが高度成長社会に
進む都会の憂鬱(ウナ.セラ.デイ 東京など)を表現したのに対し、

こまどり姉妹の方は、それらに取り残されて、
貧しく、惨めな境遇の中から
一生懸命生きてきた来た姉妹が、庶民の心をとらえた。

寒い北国の中で2人励ましあいながら、人の情け求めて
泣く心情が心をうつのだろう。

テレビマスコミから取り上げられなくなったが
今はいかに暮らしているだろうか。

『津軽の海を 越えて来た
ねぐら持たない みなしごつばめ
江差恋しや 鰊(にしん)場恋し
三味を弾く手に 想いを込めて
ヤーレン ソーラン ソーラン ソーラン
唄うソーラン  ああ 渡り鳥

故郷の港 偲んでも
夢も届かぬ 北国の空
愛嬌えくぼに 苦労を隠し
越えたこの世の 山川幾つ
ヤーレン ソーラン ソーラン ソーラン
旅のソーラン  ああ 渡り鳥

瞼の裏に 咲いている
幼なじみの はまなすの花
つらいことには 泣かないけれど
人の情けが 欲しくて泣ける
ヤーレン ソーラン ソーラン ソーラン
娘ソーラン  ああ 渡り鳥』  
   
こまどり姉妹  ソーラン渡り鳥


チャッピー物語(コーヒーブレイク)(23) 歌中歌3

ペギー葉山の”南国土佐を後にして”という歌がある。

これも高知県の民謡の”よさこい節”を下地にしている。

ご当地ソングのはしりというものともいえるし、

この歌のおかげで当時観光客は倍増したそうである。

”学生時代”と共に代表的ヒット曲になった。

夫の根上淳とはおしどり夫婦でしられていた。

高度成長時代の到来とふるさと志向がマッチしたものと

思われる。

『南国土佐を 後にして
都へ来てから 幾歳ぞ
思い出します 故郷の友が
門出に歌った よさこい節を
土佐の高知の ハリマヤ橋で
坊さんかんざし 買うをみた

月の浜辺で 焚火を囲み
しばしの娯楽の 一時を
わたしも自慢の 声張り上げて
歌うよ土佐の よさこい節を
みませ見せましょ 浦戸をあけて
月の名所は 桂浜

国の父さん 室戸の沖で
鯨釣ったと 言う便り
わたしも負けずに 励んだ後で
歌うよ土佐の よさこい節を
言うたちいかんちや おらんくの池に
潮吹く魚が 泳ぎよる
よさこい よさこい』


チャッピー物語(381)   ”男と女” 最終章  

山陰の港が見えるバーの話に戻る。

夜もふけていた。時々霧笛が聞こえた。

安西が何時ものようにカウンターに座っていた。

そして綾子は酒を注ごうとした時、

ふらふらとしゃがみ込んでしまった。

安西はその様子を見て綾子を抱きかかえ

ひたいに手をあてた。大変な熱だった。

ホステス達も協力して連絡しあった。


すぐに救急車を呼び、病院に運んだ。

安西も同行した。急患なので、医者も

看護婦も切迫した。どうやら肺炎の

様子だった。


男)もしもきらいでなかったら
(男)何か一杯のんでくれ
(女)そうねダブルのバーボンを
(女)遠慮しないで いただくわ
(男)名前きくほど野暮じゃない
(男)まして身の上話など
(女)そうよたまたま居酒屋で
(女)横にすわっただけだもの

(男女)絵もない 花もない 歌もない
(男女)飾る言葉も 洒落もない
(男女)そんな居酒屋で

居酒屋(1) 五木ひろし/木の実ナナ


チャッピー物語(382)   ”男と女” 最終章  

安西は毎日見舞いに訪れた。

医者も親戚かと思い病状を話し出した。

綾子は肝臓も患っていた。

綾子は飲めない酒を無理に飲んでいたせいでも

あった。なにより心労が深かったようだ。

眠った日々も続いたが、

注射により小康を保った事もあった。

テレビも見れる日もあった。

(男)外へ出たなら 雨だろう
(男)さっき 小雨がパラついた
(女)いいわやむまで此処にいて
(女)一人グイグイのんでるわ
(男)それじゃ朝までつき合うか
(男)悪い女と知り合った
(女)別に気にすることはない
(女)あなたさっさと帰ってよ

(男女)絵もない 花もない 歌もない
(男女)飾る言葉も 洒落もない
(男女)そんな居酒屋で

居酒屋(2) 五木ひろし/木の実ナナ


チャッピー物語(383)   ”男と女” 最終章  

テレビを見るともなくみていると、

徹夫が個展を開いている特集をやっていた。

多くの観客も次々と殺到していた。

雑誌社の竜崎、高子も後援会として出席していた。

徹夫の人気と実力を気にいった

スポンサーがついて今までの作品の

個展を開いたのを特集し、

雑誌の内容についても解説していた。

徹夫がアナウンサーの質問を受け、

”4次元シャッター””秘伝のシャッター”と言うものを

質問していた。徹夫は人気にも奢ることなく

素朴に答えていた。

『呼んでいる 呼んでいる
  赤い夕陽の 故郷が
  なつかしい 面影の
  ひとつ星も またたくよ
  小麦畠は 二人の夢を
  ひそめているか おーい 今もなお』

赤い夕日の故郷(2) 三橋美智也


チャッピー物語(384)   ”男と女” 最終章  

アナウンサーは”今後の方向は

どう考えていますか”と質問した。

徹夫はしばらく考えて”6感を表現できたら”

”それはどういう写真なのですか”

”例えば林の風をさわぎが聞こえるとか

ペットの抱き心地の触感とか

花の匂いとか感じられるものとか

料理の味が味わえるとかそういうものが

できたら素晴らしいじゃないですか

徹夫の淡々と答える話にはなにか

すぐにも可能であるような印象を持たれたものだ。


チャッピー物語(385)   ”男と女” 最終章  

綾子はしばらくぶりに見る徹夫の姿に

感激を覚えた。ああこんなに成功を

収めることになったのか

そしてはらはらと涙を流した。

そして別れた時からの自分の立場を

思いやった。そして再び会いたいとは

思ったが自己の状況はそんなものには

なっていないとも振り返った。

『呼んでいる 呼んでいる
  赤い夕陽の 故郷が

  涙ぐみ 背のびする
  渡り鳥を 呼んでいる
  雲よ行くなら おふくろさんに
  思いをせめて おーい 乗せて行け
  (おーい)』
赤い夕日の故郷(3) 三橋美智也


チャッピー物語(386)   ”男と女” 最終章  

それでも、もう最後になるかもしれないと

綾子は自分の思いだけは

伝えたいと手紙を書き始めた

一行一行簡単な内容だが

それさえも辛かった。気力を

振るい起こして書いていった。

全部書き上げると安西がきたので、

徹夫に送ってもらう様に頼んだ。

動くこともできず、言葉も弱弱しかった。


チャッピー物語(387)  ”男と女” 最終章  

安西はテレビ会社に聞いて

雑誌会社を紹介され,そこに

郵送した。気を利かして

病院の住所を付け加えていた

徹夫は綾子の手紙を見て驚いた。そして

そうとう病状が進行しているのではないかと

すぐに電車にのった。

『あなたをほんとは さがしてた  
汚れ汚れて 傷ついて  
死ぬまで逢えぬと 思っていたが  
けれどもようやく 虹を見た  
あなたのひとみに 虹を見た  
君こそ命 君こそ命 わが命』

君こそわが命(1)   水原弘


チャッピー物語(388)   ”男と女” 最終章  

電車の中でも徹夫は綾子の手紙を読み返した。

端正な字体ではあったが弱弱しさは隠しようが

無かった。『徹夫様

綾子でございます。最近テレビで拝見しました。

御活躍の程大変嬉しく思います。

貴方と過ごした日々が大変懐かしゅう思い起こせます。

私はもう再びお会いできないとも思いこうして

文をしたためました。

お別れしました事は、結局貴方に良かったのでは

ないかと存じております。

あの時は千々に思いも乱れましたが、

一緒に過ごせた日々を病にふける今

私の大切な思い出となり、それだけで幸せを
感じております。』


『あなたをほんとは さがしてた   
この世にいないと 思ってた   
信じるこころを なくしていたが   
けれどもあなたに 愛を見て   
生まれてはじめて 気がついた   
君こそ命 君こそ命 わが命』

君こそわが命(2)   水原弘


チャッピー物語(389)   ”男と女” 最終章  

綾子の文はさらに

”あの時は理不尽な女とお思いでしょうが、

このままで私とすごしても、どうにも

ならないと思ったからでした。

私のような女はやはり駄目でした。でも

こうして貴方の成功を拝見しまして、

やはり今では良かったと思うしだいです。

今後ともお身体大切に影ながら

祈っております。”

『あなたをほんとは さがしてた   
その時すでに おそかった   
どんなにどんなに 愛しても   
あなたをきっと 傷つける   
だからはなれて 行くけれど   
君こそ命 君こそ命 わが命』
  
君こそわが命(3)   水原弘


チャッピー物語(390)   ”男と女” 最終章  

徹夫は綾子の病を思い一刻でも

駅に速く着かないかとあせっていた。

徹夫は本当に求めていた人はだれか

今はっきりと分ったのだ。

(丈夫でいて欲しい

僕が会いにいくまで)


電車の速さに倍する速度で

(綾子に合えるように)徹夫の心は飛んでいた。

『夕陽の丘を 見上げても
湖の畔を 訪ねても
かいなき命 あるかぎり
こころの傷は また疼く


人の子ゆえに 恋ゆえに
落ちる夕陽が 瞳にいたい
さよなら丘の たそがれよ
また呼ぶ秋は ないものを』

夕陽の丘    石原裕次郎/浅岡ルリ子

(終わり)


チャッピー物語(番外)    作者より(18) 

ようやく最終回になりました。皆さんのお蔭です。

よく励まされました。

内容的には皆さんには

物足りないとは思いますが、よく390回
(+番外20回)+コーヒーブレイク(25回)で(1年半の長期に
できたと自分ながら呆れています。王監督の

ホームラン記録を目指せという事も、影響したと

思っています。多くのアドバイスをいただきました。

前にも言いましたがカウントが増えているのが
分かり(今日まで4500回近くなっているのが分かり)
励みになっておりました。
皆さんどうもありがとう御座いました。


チャッピー物語(番外)   作者より(19) 

ある人より”イッチャン歌集”を

メールで送信してくれました。中身は

”チャッピー物語”に載せていた

歌を全部綺麗に整理してくれたものです。

インデックスも付けてくれて参照しやすくなって

おりました。50ページにも渡るもので

良く整備してくれておりました。


1つ1つ歌を見ながら逆に物語の筋書きを

思い出して気分よくなりました。

記念にもなりますし、気のつかないうちに

こんなにまとめてくれて、有難う御座いました。


チャッピー物語(番外)    作者より(20) 

ころで最後に初めの主人公であり題名の

チャッピーはどうしているでしょう。いまも元気で

我が家におります。あれから別れた

母犬と妹の葉月ちゃんに再会した時

チャッピーの喜びは爆発し、すりより

騒ぎ、抱きつき、感激したものだった。

”恩讐の彼方”とかいうのは人間だけなのか

”南極物語”の太郎、次郎を思い起こさせる。

極寒に見捨てた人間を恨むのではなく、1年後に

会えた喜びの感動シーンを覚えているでしょうか。

犬の方がすごいのかと思われたのでした。


チャッピー物語(番外)   作者より(21) 

ところで今後はどうするかを考えております。

一応チャッピー物語は終了したのですが、

物語の中でも気になる人物の後日談も

気になっています。節子と守と子供達、

竜崎と健二、高子と母と柿沢、早紀のその後

安西そして旅館の人々など書き残したような

気もしますが、現在とくに案がありません。

今後生み出せれば、新規に進められるか

どうかが分かるのではないかと思います。


チャッピー物語(コーヒーブレイク 24) 3重写し

普通の小説というのは本編があって、最後に後書きで
作者の物語に対する、思い入れ、エピソード、背景などを
書くのが一般的であるが、

この物語では、本編(N○○)と歌
50編ずつに番外(B○○)、それに随時コーヒーブレイク(C○○)と
なっている。番外(B)では、作成当時の感想、背景などを書いており、
コーヒーブレイク(C)は約1年半後に当時気のつかなかった作者の
小さい頃の思い出とか、旅、映画、歌謡曲など趣味の部分も入れている。

これらは知らぬうちに物語を複合的に表現したことになっている。
結果的にNとBとCが3重写しになっているのではないだろうか。
徹夫のカメラの3重写しの苦心と共に作品自身も、
そうなっていると思うが、読者にとってどう写っているだろうか。

意識してそうしたわけではないが、長期連載のため、作者がいろいろ
書いてきた結果にそうなったのであろう。本編(N)の中にたくみに
表現できればもっとすばらしいのではあるが。
皆さんお楽しみできたでしょうか。

できれば最初から読み返していただければとは思いますが


チャッピー物語(コーヒーブレイク 25)母の思い出@

私も人の子であり、既にこの世にいない明治生まれの母を時に思い出す。
幼少の頃より北海道の病院の娘として育てられた母を当時としては
裕福で何一つ不自由のない生活でお嬢さんとして育ったそうである。

一時的に名刹として知られるお寺の養女として女学校時代まで
厳しき訓練を受けて成長期を終え、20歳頃に実家に帰り私の父と見合いをして
結婚。十河さん(後の国鉄総裁)の引きを得て、満州に渡り、満州製鉄の所長
(部下100人)の妻として2人の子供を満州で出産。新京で生まれた次男が私である。

当時の絵葉書に乗った大名のような邸宅に住み、お産も病院長自ら陣頭指揮をとり
医師、看護婦数十名の盛大なものであったらしい。

しかし終戦で一切の財産を失い父の故郷、四国愛媛県西条市に引き上げ、
無一文から出直す。父は公務員の職を得たが、母は子供の将来を考え洋品店を
開業(といっても同じ店をやっている知り合いの店のコーナーを借りて始めた)
したが、素人の悲しさ相当苦労したようである。

しかしながら近くの工員さん、店員さんなど多くの人がひいきにしてくれ
ようやく繁盛して、自分の店を持てるようになってきた。

終戦後であり、貧しい若い工員さん、店員さんに悩みと現実の苦しさを
どういうわけか母によく相談、母も多くの若者を激励、励ましていたことを
記憶している。

ともすれば工員店員などとバカにしてさげすむような風潮でもあった時代である。
そのような中で人間として遇し、お金も少ないだろうと買った商品の支払いを
配慮したり、時には家族のようにご馳走したりして将来の不安と
孤独にさいなまれていた若者たちの慰めにもなっていたようである。
信頼関係と情愛がかもし出す雰囲気が確かにあった。

ところがあるとき思いがけない事が起こった。


チャッピー物語(コーヒーブレイク 26)母の思い出A

店の商品に盗品が紛れこんだことで、警察の手入れがあった。
盗んだものを扱かっているのではないかという疑惑をうけたのである。

戦後民主警察といわれているが、田舎の警察などは、昔風の権威をかさにきて
”おいこら”警察であり、取調べは苛烈を極めたそうである。こちらの言い分を
まったく聞き入れない有様であった。

ところがこのことを聞きつけた、くだんの工員さん、店員さん、および近所の
商店街のかたがたはこの時ばかりと、怖い警察に次々と談判抗議を申し込み
”石川さんは決してそのようなする人ではない”と弁護してくれた。

警察もあまりの剣幕に驚き、よくよく再調査をする中、間違いがわかり
事故であったことが、判明したのである。母は救われたこともうれしかったが

いままでの人が苦境時に味方になってくれた事も大変感激したそうである。
私が母を尊敬し誇りにしていることである。


チャッピー物語(コーヒーブレイク 27)母の思い出B

古きよき時代のことであり、今はそういう時代ではないよといわれ
  渡る世間に鬼はなしーー>人を見たら泥棒と思え
という風に変化してきたようである。

私も社会人となり、自分の生活で精一杯で人のことなど考慮するなど
出来ないことも多いが、そればかりでは、つまらないし、孤独でしんどいのでは
ないか。自分が順調であれば良いが、いざ苦境に落いった時にどうであろうか

スターリンはこの上ない独裁者として君臨したが、同志さえも信頼できず、
数千万人を追放、流刑、獄死させ、秘密国家を作り上げたという。
絶えず地位、身の安全を奪い取られるのではないかという恐怖がなせる業という。

ガンジーは非暴力で多くの民衆の支持を受け、未だに赫々たる信望と
今後への指針を集めるという。トルストイも人類愛の精神で21世紀の
希望をともす。

よき思い出を持っているだけで幸せのひとつであり、個人的な
話ですが、皆さんに紹介したわけです。またこのように
長く連載が続けられたのも母のたまものと思っています。


チャッピー物語(コーヒーブレイク 28)父の思い出@

父も90才まで生きたが、すでに他界している。
明治生まれであるが、当時としては優秀で早稲田大学の政経学部に
入学して将来を嘱望された。

関東大震災を東京で遭遇し、”大学を出たけれど”という時代なので、
相当しんどい時期をすごしたそうである。北海道に職を得た時、
母と見合いをして結婚。

同郷(愛媛)の先輩の十河さん(後の国鉄総裁)の知遇を得て、満州に
渡り、満州製鉄の高官として相当の待遇を受けたそうである。


昭和19年9月私も満州で生を受けた。
当時満州は日本の天下であり、中国人を属国人として牛や馬のように
鞭や棒で殴るような扱いが多かったそうである。

父だけは早稲田の精神だろうか”日本人だろうが、中国人だろうが
同じ人間”として遇し接し心から慕われていたそうである。


ところが昭和20年8月敗戦の結果一挙に中国との関係は逆転した。
いままで勝ち誇っていた日本人はとたんに中国人に虐待されてしまう。

日本人は満州から撤退を要求され、子供を置き去りにせざるをえない
状況もあり、何十年ののち、日本人の子供たちが年取って、里帰りに
なるシーンを皆さんテレビでご覧になった方も多いでしょう。


チャッピー物語(コーヒーブレイク 29)父の思い出A

日本人の子供は優秀なので売り飛ばされるような事実もあった。
また動乱の中で親子離れ離れになってしまったとか。

ところがうちの家族だけは襲撃など受けず大丈夫だったそうである。
今までの信頼関係により”石川さんには世話になった”と特別に遇して
くれたそうである。

しかしながら状況はますます厳しく特にロシアが
急に攻めいった時の状況はますます大変であった。家族が留守の時
私(当時1歳の赤ん坊)を強奪していったそうである。

父母は連絡を受けて必死に取り返しに行き、無事に奪い返した
そうである。その時にだめだったら現在の私はいない。

満州の孤児となったか、死んでいたかもしれない。
そのほうが良かったのにという人がいるかもしれない(苦笑い)


チャッピー物語(コーヒーブレイク 30)父の思い出B

無事に日本へ帰還できたのは(財産は全部放棄せざるをえなかったが)
敗色濃い中で仕事が満州の奥地から(新京ーー奉天ーー大連ーー旅順)と
順次 海岸方面に転勤になったことにもよるそうである。

引き上げ後、父は愛媛県の公務員(教職理事)の職を得て、一介の
市井人として、多くの親戚、知人の面倒をみていたのを記憶する。

昔の記憶は良いことばかりが残るそうだが、それも幸せの一つで
あろう。私もアラビア、東南アジア方面などを旅行してみたが、
これからは一度満州に訪れたい。

当時の記憶はまったくないのであるが、
父母が過ごした土地はどのようなものか、

自分のルーツはなんなのかを確認してみたい気がしている。
夢とかロマンとか希望を、何時までも持ちたいものです。

個人的な話ですが、父の思い出を通じて、
連載も可能になった気がしています。

続きは後
ほど 
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